独立前の準備というと、人脈をつくること、生活費を蓄えておくこと、自分の強みを磨くことなどがよく挙げられます。どれも大切ですが、それらを始める前に考えておいた方がよいことがあります。

私は2014年に独立しました。ここでは一般的な開業手続や成功法則ではなく、実際に仕事を続けるなかで感じたことをもとに、独立準備の段階で考えておきたい三つの視点を整理します。このコラムでは、できる限り実体験に沿った具体的で役立つ知識をお伝えしていきたいと考えていますが、今回は最初のコラムとして独立準備の全体像を取り上げるため、やや抽象的な内容になることをご了承ください。

01

「なぜやりたいのか」だけでなく、
「どうやっていきたいのか」を考える

独立の動機を明確にすることは大切です。しかし、実際の準備に直結するのは、独立した後にどのような事務所をつくりたいかという大枠の方向性です。

事務所を拡大していきたいのか、一人で専門性を生かして仕事をしたいのか。税理士であれば、法人を中心にするのか、相続を中心にするのか。多くの案件を効率よく受けるのか、少数の顧客に深く関与するのか。選ぶ方向によって、準備に投入すべき時間、お金、労力は変わります。

特に、将来人を雇って事務所を拡大したい場合は、最初から一人で始めるのか、事務所を借りて採用も進めるのかによって、その後の戦略だけでなく実生活も大きく変わります。

最初に決めた方向へ必ず進めるとは限りません。それでも、大枠を持たずに始めるより、途中で方向を修正する方が、時間や費用のロスは小さくなります。

02

自分にとって、
戦いやすい場所かを考える

自分が主戦場にしようとしている業務には、どれくらいの需要があり、どれくらいの競争相手がいるのか。この確認も独立前に欠かせません。

勤務時代に、高い報酬を得られる専門業務を担当していた方もいるでしょう。たとえばM&Aにおける企業価値評価や国際税務などです。ところが独立後は、その業務を必要とする顧客が、個人の専門性だけでなく、事務所のブランドや規模、組織としての対応力を求める場合があります。勤務時代にできた仕事が、そのまま独立後も受注できるとは限りません。

地域の選び方も同じです。都心部には見込み顧客が多い一方、同業者も多くなります。地方では競争相手が少ない代わりに、需要そのものが限られることがあります。

現在は、商圏内の事業者数や同業者数をインターネットで調べやすくなりました。厳密な計算でなくても構いません。自分なりの「有効求人倍率」のような感覚で、需要と競争のバランスを確かめておくと、仕事を得られる可能性を現実的に考えられます。

03

顧客と出会う手段を、
一つに絞らない

独立後に仕事と出会う手段には、前職までの人脈、ホームページなどのインターネット、地域の団体、税理士会をはじめとする士業団体などがあります。

独立前は、どれか一つの方法だけでも仕事を得られるように感じることがあります。しかし、実際に独立してみると、想像していたより早く手持ちの選択肢がなくなり、強い焦りを感じることがあります。

人脈は信頼につながりやすい一方で、数には限りがあります。インターネットは成果が出るまでに時間がかかる一方、長く仕事につながる可能性があります。地域や士業団体での活動は、すぐに受注にならなくても、少しずつ接点と信用を増やせます。

それぞれの手段は性質が異なります。一つに期待しすぎず、時間や費用をどの程度振り分けるかを考えながら、複数の経路を少しずつ育てていくことが大切です。

CONCLUSION

まとめ

独立後は、計画どおりにいかないことも少なくありません。だからこそ、細かな計画を完璧にするより、まず大枠を決め、市場を確かめ、仕事と出会う手段を複数用意しておく。その三つが、独立後の焦りを小さくし、状況に応じて進路を修正するための土台になると思います。